藤本青果
Net-Working パーソン to パーソン

(Vol.013)
またまた、『甲虫王者ムシキング』総合プロデューサー
植村比呂志さんにインタビュー




  今年2月に掲載し、大きな反響をいただいた「甲虫王者ムシキング」インタビュー。もちろん、ムシキングの人気は今も衰えることなく、子どもたちを夢中にさせています。そんななか、ついに「ムシキング」がゲームボーイアドバンスの家庭用ソフトとして登場。去る6月23日、全国一斉に発売されました。“入院していて外出出来ない、家が自営業で土日に出かけられないなど、お店になかなか行けない子どもさんのため”という総合プロデューサー、植村氏の願いが形になった、といってもよいでしょう。

 
そこで、早速、ムシキングチーム代表、(株)セガの植村比呂志氏を再直撃。ゲームボーイアドバンス(以下、GBA)版に対する想いから、春にスタートしたテレビアニメ、さらにお正月公開される劇場用映画のお話まで、うかがってきました。


Q:GBA版「甲虫王者ムシキング〜グレイテストチャンピオンへの道〜」が発売されました。(株)エンターブレイン調べによると、初週(6/23〜6/26)で約23万本を売り上げたとのことですが、この記録について、率直なご感想をお聞かせ下さい。

植村さん●私自身は、コンシューマ(家庭用)のビジネスをやってきたわけではないので、その数字が意味するところは、あまり実感として分かっていないんですよ。アーケードであれば、「今週末はカードが○○枚出た。来週はどのくらいかな? その先も、もっと伸びればいいな」という発想になります。一方「発売開始4日間で、23万本出た」からといって、「じゃあ、来週は30万本だ!」という計算にならないのが、コンシューマです。逆に、発売日を過ぎるほどに、減っていきますよね。ただ、「ムシキング」は、マニアが行列を作って購入する、というタイプのソフトではないので、これから夏休みにかけて、コンスタントな伸びを見せてくれればと思います。このまま順調にいって、ミリオン(100万本)行けばいいなーと。これが正直な感想ですね。


Q:GBA版の企画立ち上げから、実際の完成までは、どのくらいの期間がかかっていますか?

植村さん●かかった期間は、約10ヶ月間です。10ヶ月前というと、会社としては、ムシキングの人気が高まってきたので、コンシューマの展開が出来ないか、という話になった時期です。もちろん、ムシキングチーム内でも「よりお茶の間に浸透させたいな」という想いはありました。それまで、ムシキングって“週末だけ”のゲームだったんです。そこで、もっとキャラクターとして親しんでもらうためには、いつも手元に置いてもらえるゲームが必要だと考えました。こうした我々の想いと、会社の意向が一致した、というわけです。
とはいえ、最初は、とても慎重でした。どんな内容にするか、を考える以前は、「家庭用ゲームを発売したら、アーケードに影響が出るのではないか」という気持ちが強かったです。でも、以前お話したように、遊びたくても遊べない事情の子どもたちのことを想うと、やはり作ろう!と。


Q:いよいよ開発がスタートしました。一番、注意した点、苦労した点を教えてください。

植村さん●まず、どんな内容にするか、ですね。4月に放送が始まったテレビアニメの世界観をゲームにする考えもありました。冒険ファンタジー色が強いし、むしろ、そちらのほうが自然かなと。しかし、それはやめました。原点に立ち返れば、ムシキングを遊びたくても遊べない子どもたちのために作るんですから、そこから外れてはいけない。というわけで、アーケードの楽しさを再現することにしました。お金を入れて、カードが出てきて、一喜一憂する。カードについて、友だちとコミュニケーションを図る、という楽しさですね。そんなムシキングを中心に巻き起こる“現象”を、GBA版でも体験して欲しかったんです。
もう1つの悩みどころは、アーケードのカードを使えるようにするか、もしくは、完全にカードと切り離すべきか。つまり、GBAのソフト内でカードを流通させるか、ですね。ただ、子どもたちが持っているカードの枚数には、個人差があります。実際のカードを使うルールにしてしまうと、持っているカード枚数が少ない子どもにとってみれば「どうやって遊べばいいの?」という話になってしまいますよね。ならば、ソフト内でゲームを払い出そうと。そういった、選択の積み重ねが、プロデューサーとして、苦労した点といえます。


Q:GBAというハードを選んだ理由は、何ですか?

植村さん●みんなが持っている、という普及率の高さです。もちろん、技術的なアピールをするのであれば、より高性能なハードでの発売になりますが、「ムシキング」の場合は、そうした面に依存する必要はありませんでした。すでに子どもたちは、1枚のカードから、さまざまなこと(姿形や、戦う様子)をイメージしてくれているんです。ですから、ことさら、派手な映像を作ろうとは思わなかった。それよりも、1人でも多くの子どもたちが遊べるハードを、という結論に至りました。そうなると、GBAが最も適していたわけです。


Q:第2弾のご予定は?

植村さん●ありますよ! アーケードに関しては、いつも“5年、10年続けていく”とお話しているんですが、GBA版に関しても同じ考えで、どんどん進化させたいと思っています。新しいカード、新しいルールで、1年に1本のペースで新作を発表できればなと思っています。


Q:大会を疑似体験できる、という内容ですね。お子さんの反響はいかがですか? 大会への参加意欲が増すのではないでしょうか?

植村さん●まさにその通りですね。ムシキングの楽しさをGBAで体験してもらった上で、実際の大会に出場してもらう、というのがベストですね。ただ、まだ発売して間もないので、実際の反響や効果はまだ分からないですね。もちろん、受け皿として、これからもドンドン大会は開催していきますよ。夏には、バトルカーニバルもありますしね。


Q:大会について、1つ教えてください。実は、2月にインタビュー記事を掲載した後で、いろいろな反響をいただいたんです。そのなかでも「大会に出場したいけど、先着順で受け付ける会場が多く、なかなか出場できない」というお嘆きのメールが数通あったんですね。抽選式にしているケースもあるようですが・・・。

植村さん●確かに、エントリーするためのハードルが高すぎるんですよね。ただ、先着順にするか抽選式にするかは、あくまでお店側の考え、つまり「どんなシステムが、お客様の願いに応えることができるか、喜んでいただけるか」という考え方に基づいています。お店は、最終的に、人間対人間のサービスですから、各店舗の“色”が出るべきだと思うんです。例えば、出場するために、お店の前で、徹夜で並ぶお客様がいる。そうしたお客様に、どう応えるかは、やはりお店側が決めることですよね。その対応について、私たちが「こうして下さい」と意見することはできません。もちろん、対応にお困りのお店に対して、「こんなケースもありますよ」とアドバイスさせていただくことはあります。
一方、ゲーム上の競技ルールは、不正がないように徹底して守っていただいています。「レアカードを賞品として渡さない」とかですね。私たちがすべきことは、大会のクオリティを保つことなんです。


Q:4月からテレビアニメ「甲虫王者ムシキング〜森の民の伝説〜」がスタートしました。具体的に、ムシキングチームはどのような関わりをされているのでしょう?

植村さん●アニメーション製作は、弊社のグループ企業(株)トムス・エンタテインメントが行っています。私たちの仕事は、ゲームの世界観から外れないための“監修”ですね。「ムシキング」は自然にいる虫をそのまま登場させていますから、アニメだからといって、例えば、この世にいない虫がデザインされたり、突然、虫を変身させたりは出来ませんよね。


Q:ゲームとは打って変わって、ファンタジー色の強い世界観ですね。

植村さん●ゲームにも、(アニメの主人公である)ポポとアダーは登場して、いざこざを起こしますよね。ただ、ゲームではあまり、その部分を深く見せることは出来ません。子どもたちは、そういったストーリーが見たいのではなく、一刻も早く「ゲームがしたい!」と思っていますからね。ポポたちの役割は、あくまできっかけなんです。ところが、アニメとなると、逆にそういったストーリー部分を最大限に膨らませる必要があるんですね。新しい登場人物を追加したり、さまざまな要素がつけ加えられています。


Q:12月には劇場映画が公開されます。こちらは、テレビとは一転、GBA版の世界観をベースした内容になるそうですね。

植村さん●はい。ゲームをやったことがある人なら、イメージしやすいでしょうね。シンプルで、明るくて、分かりやすい物語です。40分前後の上映時間を予定しているので、テレビアニメの壮大な世界観ではなく、日常のリアルさを切り取って、見せてあげるほうが、子どもたちは楽しめると思っています。


Q:さらに広がりを見せる、ムシキングの世界。今後の具体的な展開を教えてください。

植村さん●まず、アーケードについては、現在、全国に1万台ほど設置されているムシキングの筺体(きょうたい)に加えて、同じカードを使って、もっと違う楽しみ方が出来るムシキングを追加する予定です。具体的には、メモリーカードを使って、ゲームの続きが出来る、ロール・プレイングのような仕組みになっています。「ポポが虫と旅に出て、母親を助ける」というテレビアニメに近いストーリー展開ですね。今のところ、1ゲームの所要時間は6分間ほどの予定です。通常なら、同じタイトルで、違う遊び方をする筺体が一緒に並ぶ、なんてことはあり得ないんですが、今後、さらにムシキングを楽しんでいただくための展開として考えています。すでにプロトタイプを作り、ロケテストは完了しています。
コンシューマに関しては、さきほどお話した通り、新しいカード、新しいルールで、1年に1本のペースで新作を発表したいと思っています。もちろん、ビジネスとして考える必要がありますから、ソフトの売上げによりますね。また、まだ明確な時期などは決まっていませんが、いずれはテレビアニメで描いた世界観でソフトを作りたいとも思っています。


Q:最後に、植村さんが思い描くムシキングの未来像を教えてください。


お忙しいところ、本当にありがとうございました!
植村さん●特に奇抜なことをしよう、というのではなく、より広く浸透させることを目的に、いろいろなことを計画していきます。最終的に、重要なのは、中身だと思うんです。アーケードであれば、1人でも多くの子どもたちに、面白さを知って欲しい。コンシューマに関しても、瞬間的な売上げだけを目的にしてはいけないと思います。それぞれの家庭に、いろいろなルールがありますよね。例えば「大きなプレゼントは、クリスマスと誕生日だけだよ」とか。そういったペースのなかで、手にとっていただける商品を作らなければいけないと思っています。つまり、本当の勝負は、これからなんです。例えば、今後、ブームが沈静化したときに、それでも「ムシキングなんです!」と会社を説得できるだけの意志と説得材料を持ちながら、持続させていきたいと思っています。

 

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